2023年06月12日

江戸時代の三瀬村

 前回までは、戦国時代末期の神代家の話しを書きましたが、神代家も長良の代、その子・千寿丸が亡くなったあとは相当にその勢力が衰えました。

 それで、鍋島家からお婿さん(直茂の弟小川武蔵守の子犬法師丸)を迎えて、龍造寺・鍋島と和睦。犬法師丸は神代家良と号し、その後、芦刈に転封された上、最後は川久保に1万石を貰って鍋島のご親類格ということになり、結局のところは三瀬の主ではなくなってしまいました。
ただ、山内と呼ばれる北部佐賀は、鍋島に対する独立心が強く、特に背振(脊振)とともに黒田藩との境でもあったことから、山内刀差五百人と呼ばれる郷士のような人たちが住んでいたようです。

 そのいわれを『葉隠』では、「勝茂公御代までは山内の者ども神代の遺風にて佐賀に不順のことのみこれあり…」とあって、それに困った藩では、鍋島新左衛門種奏の子舎人佐(とねりのすけ)が三反田の代官に補されてさんざん苦心。その結果、「山内の者共親しく罷りなり、後には舎人殿を主人のように取持ち、それより佐賀へも順々申し候。山内に刀さし五百人仰付けられ、鉄砲一挺用意致し罷りあり候」と記されています。

 そして、年初には、藩主が佐賀から大和町の松梅まで出向き、三内の大庄屋に挨拶をし、酒肴を下賜したということでした。
その大庄屋の代表的な一家が、音成六兵衛という人で、この辺りまでくれば、あああそこの音成さんの先祖だな、ということが多くの三瀬の人に浮かんでくるということになります。かくいう私もその流れの一人です。

 しかし、江戸時代の三瀬の「歴史」を示すもっと手軽な史料ということになってくると、なかなかはっきりしたものがありません。例えば、慶長17年(1612年)の山本軍助鳥獣供養塔という石塔が今原の杉神社前にあり、その頃山本軍助さんという人が、猟師としてたくさんの動物をとっていたけれど、最後はそれを供養するためにあの石碑を建てたということがわかります。
あるいは、肥前の国に特有の六地蔵や鳥居、それに狛犬が三瀬村内にもいくつか見られます。こうした史料は、十二分に保存していかなければならないだろうと思いますが、今は、そのあたりの気配りが欠けているような気がします。しっかり保存しておかないと大変です。

 一方、なんといっても、この三瀬の江戸時代は、現在の263号線にあたる街道が福岡と佐賀を結ぶ重要な道路であったということが何にも増して貴重な遺産ではないかと思います。

 例えば、『葉隠』の主人公とも言うべき湛然和尚は、鍋島光茂により、藩主に直訴した、村了という円蔵院の坊さんが死罪に処せされたことに腹をたて、佐賀から松梅を通って福岡の方に行こうとしたところ、松梅でストップをかけられてそこに居つき、現在も湛然和尚の墓が大和町松梅華蔵庵にあり、通天寺にはその木像があるということなどもこの道の重要さを物語ります(下田には石田一鼎の墓もあります)。
幕末の江藤新平、大隈重信らもこの道を通ったことでしょう。それを物語るような旅館のあともあります。

 もちろん、現在のように車がまっすぐ通れるようになったのは、ほんのここ20数年の話しで、それまでは三瀬に車で行くには、神埼経由か北山回りでのバスの場合は2時間もかかったということもありました。本当に三瀬は、自動車時代のはしりにおいては、まさに佐賀のチベットみたいな所だったと思いますが、「歩く」場合、大和の松梅から柚木、向合観音峠を越えて三瀬に入ってきたわけでしょう。私の父の代も、子供の頃は高木瀬の市場に農産物を出すには観音峠で仮眠して高木瀬に向かっていた、ということでした。眠っていると足の先をきつねにつつかれたそうです。

 そんな不便な三瀬村でしたが、現在は全国で佐賀市と福岡市、京都市と大津市、仙台市と山形市が、ただ三つ県庁所在地同士が繋がった場所だということの一つとして、三瀬と福岡とは極めて密接であり、そんな有利な地位を生かしていきたいと思います。

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2023年6月10日
嘉村孝
(三瀬出身。東京で「葉隠フォーラム」という名の歴史学者参加の勉強会を主宰。毎月開催で250回を数える。)
http://hagakurebushido.jp/

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Posted by みつせファン  at 17:30 │嘉村孝