2023年12月10日

(最終回)これからの「農村」三瀬村

(編集部より)

三瀬村出身で東京在住の嘉村孝さんの『三瀬コラム』は今号で連載を終わります。2022年4月から、毎月1本コラムを寄稿していただきました。現在は三瀬にお住まいではなく、定期的に帰省されているだけなのに、三瀬の歴史、史跡などについて、私たちも知らないことを多く書いていただきました。三瀬への深い愛情を感じるコラムでした。編集部一同より御礼申し上げます。ありがとうございました。
 それでは、最終回のコラムをご覧ください。

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『農業政策と農業法制』(竹中久二雄・西山久徳)という、名著があります。

 その本によると、1961年(昭和36年)の農業基本法制定以来、日本は「江戸時代」から「現代」に変わったとされます。つまり、それまでは「江戸時代」だったわけです。

 この基本法は、日本の工業生産の向上に合わせて農業も変わらなければならないという方針から作られたものですが、結局行きづまり、その後新農業基本法に移行したという歴史があります。
 いずれにせよ、確かにこの昭和35、6年頃から、旧海軍工廠であった三重県四日市市には、石油化学コンビナートができ、自然の堆肥を使っていた農業は化学肥料となり、ミカン箱で勉強していたのが段ボールとなり、プラスチックのレジ袋が使われ、という風に日本人の生活様式が世界の趨勢共々すっかり変わってしまいました。

 それ以前は、多くの家が自給自足体制であり、味噌醤油は自分の家で作り、布団の打ち直しや着物の洗い張りは、それができるのが女性の嗜みとされて、当然の役割のように思われ、一種封建的な社会でもあったわけです。
 生家のそばのあったお店は小さな工場のようなもので、毎日、朝からもうもうと湯気を立てて、豆腐をはじめとする様々な食品が作られていただけでなく、ヤギを飼っていたり、牛がいたりで、ヤギが子供を産んだときは、その長いへその緒にびっくりしました。

 そんな世界だったのが、その後米余りが始まって、昭和43年(1968年)からは、いわゆる「総合農政」の時代となりました。
 しかし、そのころまでは、反収を上げなければならないというわけで、山間部である三瀬の場合、一軒でも小さな田んぼが何百枚もあって、「行方不明になった一枚は自分の足の下」などという笑い話しがあったりしたのが、圃場整備・機械化が進み、三瀬も山間部にしては比較的広い田んぼになりました。

 しかし、これらの政策は、当然、人余りをもたらし、都市への人口流出を促すものであり、三瀬村でも、第一次産業が一番多かったのに、その後しばらくしてからは、第三次産業の村になってしまいました。
 現代ともなれば、かつては結婚式もお葬式も全て家でやっていたのが、「セレモニーホール」で行うというのが普通です。もちろん、こうしたことにより女性が開放されたことも間違いありません。

 一方、様々な問題も発生しました。そのような農業は相当な農薬を使用するので、健康問題が発生しますし、現在のように猪が多数出没するという話しや花粉症も皆そうした大きな経済的な流れの結果と言って良いでしょう。
 一方、現代世界で声高に叫ばれている、SDGs、ESGといった問題は、やはりこのような歴史を踏まえなければ、上手くいかないと思います。
例えば先に記した農協にしても、もとはイギリスのロバート・オウエンらに由来するロッチデール公正開拓者組合という、「良いものを少しでも安く、かつ安全に食べよう」ということから始まっています。「共存同栄、相互扶助」です。三瀬村も、そのような人類の歴史を踏まえて動いてきたのであって、村自体が生きた教材として、私たちに汲めども尽きせぬものを提供してくれています。

 ですから、私たちは今後のサステナブルな社会を作るについても、大いに三瀬の歴史を勉強したいものです。それははじめに書いたとおり石器時代や縄文時代につながる長く深いものを蔵しています。また、当然のように周辺や世界との関係を持っています。
 そんな三瀬村の「奥」をもっと極めていきたい、と申し上げ筆をおきます。


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2023年12月10日
嘉村孝
(三瀬出身。東京で「葉隠フォーラム」という名の歴史学者参加の勉強会を主宰。毎月開催で250回を数える。)
http://hagakurebushido.jp/

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三瀬のおと(佐賀県三瀬村のコラムやエッセイ)
三瀬村・里山の恵み みつせファン https://mitsusefan.com



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Posted by みつせファン  at 06:00 │嘉村孝