2022年09月15日

北山ダムのヘラブナ釣り(3)

前回の続きから


何回目かで、送り込み(振り込み)に成功すると、Kさんから、

「糸を沈めてください」

と言われた。

何のことか判らずに聞こえなかったふりをしていると、「竿先を水中に沈めて」

理由は判らないが、言われるままに竿先を水中に突き刺すように沈めて、道糸を沈める。つまり、ウキから竿先までの道糸が、水の中に入っている状態になる。その状態をキープしてから、アタリを待つのだ。

(あとで調べたら、道糸が水面に浮いていたり、ハヤ釣りのように宙に浮いていると、風の影響を受けて、道糸が流れる、たわむ、ウキが流れる、ので、それを防ぐために沈めるみたいだ。それと、ウキから竿先までをできるだけピンと張った状態を作るため)

そうこうしていると、「仕掛けを上げてください。餌が無くなっています」と言われたので、仕掛けを上げた。

2つのハリだけがキラっと光って、風に舞う。

たしかに餌が無くなっている。

これも今さらながら知ることとなるのだが、棒ウキのトップの部分には、赤黄緑黒などのシマシマ模様があるのだが、このシマシマ模様に意味があり、餌が付いているときと無くなったときとで、水面に見えるトップの長さが変わるので、どのシマシマ色(目盛り)が見えたら餌が無くなった状態かというのを、事前に餌なしのハリのみの状態で確認しておくのだ。

玉ウキだけでハヤ釣りや、鮒釣りをやってきたので、棒ウキの正確な使い方すら知らなかった。子どもの頃から釣りには親しんできたけれど、おおまかな道具と使い方で釣りをしていただけだったので、改めて道具には使い方と理由があるのを知る思いがした。

さて、振り込みを続ける。

餌とウキが着水したあと、一度まっすぐに立ったウキが、水中にゆっくりと沈んでいく。ウキのトップが水面から消えて見えなくなり、どこにウキがあるのか判らなくなる。

二人の釣りを見ていたときも、そんなウキの動きをしていたのを憶えていたので、あれはなんだろうとは思っていたが、実際に自分が竿を持っているときに、ウキが沈んだまま浮き上がってこないのは、不思議な感覚だ。手ごたえがないので、アタっっているのとは違う。

「沈んだままですね」

Kさんに聞こえるように独り言を言った。

「そのうち浮いてきますからそのままで待ってください」

すると、ウキの先っぽが水面に見えて、次第に上に上がってきた。

「いまからですよ。アタリがあったらアワせてみてください」

Kさんがそう言う。

そうなんだ。いまからなんだ。心の中でそう思う。

良いところを見せてやろうと、右手で掴んでいる竿尻を握りなおす。いつでも来い! と口には出さずに、叫んだ。

ピクッ、ピクッ、ストン(ウキが下がる)

「あっ・・・」

ピクッ、ストン。

「おっ!」

うしろから見ているKさんが、ストンのタイミングと一緒に肩を落として、ズッコケるのが判る。

「え? いまの、アワセないとダメでした??」

僕は、苦笑いをして、失敗を取り繕ろうように訊いた。

「ええ。アワセることできましたよ。もう餌無いです。上げてください・・・」

竿を上げると、2つのハリだけがキラッと光って、手元に戻ってきた。アタリを見逃してしまい、空ぶりしたのだ。

良いところを見せようと思って、準備していたのに、アワセることができなかった。。敗北感と恥ずかしさが全身を覆った。

「最初はみんなそういうもんですよ」

とKさんは、慰めるかのように言ってくれる。が、釣りに関しては、初心者ではない自負があったのだ。。その自信が見事に打ち砕かれた。

「さ、へらは集まっていますから、餌を付けて振り込んでください」

こんどこそはという思いで、マッシュポテトの団子2つを、前方に送り込んだ。

道糸を水中に沈める。棒ウキが水面に消える。これは餌が水となじんで重くなるので、沈むようだ。しばらくほうっておくと、棒ウキの先が見えてくる(浮いてくる)。これは、餌が水中でバラケて、餌の重みが軽くなっていくからだ。

「いまからですよ」 とさっきKさんが言ったのはこのタイミングで言ったのだ。餌がバラケ出して、すでに寄っているヘラが喰いつく状態がスタートした、ということだろう。

よしこんどこそ。

右手で掴んでいる竿尻を、握りなおす。いつでもきやがれ! 口には出さない。

ピクっ、

ピクっ(来る)

ピクっ(来る)

ストン!(来た!)

反射的に、右手をクイッと上げた。道糸がピンと張り、糸が走り出す。竿先がギュイーンと曲がる。立てた右腕に、重みがかかる。

「おっ。乗った! 乗った! 乗りましたね!」

Kさんが驚いて大きな声を出した。

僕は、黙ったまま、慎重に、竿をさらに立てて、ヘラの頭を水面に出してやる。そして、ゆっくりと手元に引き寄せる。銀色のヘラブナが口を開けて、近づいてきた。
ぼくの左側へ寄せて、竿を置いて、右指でハリス(ハリの付いた糸のこと)をつまんで、ちょっとへらぶなを持ち上げた。
ちゃんと、へらぶなの唇のところに、ハリがかかっている。

「釣れました」

僕はようやく声を出した。ホッとした。二十センチオーバーのまあまあのサイズのヘラブナだった。

「おー、凄い。一枚目、早かったですね。ちゃんとアワセましたね」

Kさんがそう言ってくれた。

「よかったです」

声色と表情は冷静沈着さを演じてが、内心ではガッツポーズをした。

そうして、僕の『はじめのヘラブナ釣り』は、本格的にスタートした。

続きはまた次回

北山ダムのヘラブナ釣り(3)


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2022年9月15日
川浪秀之(Webプロデューサー、作家)
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三瀬のおと(佐賀県三瀬村のコラムやエッセイ)
三瀬村・里山の恵み みつせファン https://mitsusefan.com


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Posted by みつせファン  at 11:00 │川浪秀之