2022年11月15日
北山ダムのヘラブナ釣り(終章)
前回の続きから
三瀬で一番有名な産直店、まっちゃん、から釣り場へ戻った。Kさんが釣りを再開した。
八女から来た方は、僕たちが釣り座を離れた間も、快調に釣り上げていたみたいで、入れ喰い状態になっている。
地合いができているということのなのだろう。
「振り込み方とかアワセ方とか、よく見ておいたらいいですよ」と、Kさんが言った。
八女の方は力感なく、振り込み、素早くアワセる。
「また乗りましたばい」といい、いつも行っている筑後の釣り場と比べて、北山ダムの魚影の濃さと、型の良さに満足する言葉を発した。
初めてなので、何も知らないのだが、北山ダムのヘラブナは型が良いのだそうだ。尺上(しゃっかみ)が普通に釣れるという。
そうこうしているうちに、午後2時になった。
「いま何枚くらいですか?」とKさんが八女の方に訊いた。
「あと1枚で90枚です。あと1枚釣れたら終わりにします」
そろそろ納竿しないと、家に着くのが遅くなるから、ということだった。
ほどなくラストの1枚を釣り上げて、八女の方は納竿した。「また来るときは連絡ばしますね」といって、車に乗って帰っていった。
Kさんが僕に、交代しましょうか? といって竿を預けた。
「ちょっと波が出てきて、浮子(ウキ)が見えにくくなってきたので、これかけてやってみてください」
といって、眼鏡の上からかけるタイプの偏光グラスを貸してくれた。
日差しと、さざ波で、湖面がチラチラと光って、裸眼では浮子がどこにあるのかよく見えない。凝視しても見えないし、裸眼のままで長く見ていると、湖面から反射する光で目がやられそうな気がした。
僕は再び、日よけのパラソルの下で、釣り座にあぐらをかいて偏光グラスをつけて竿を振った。
偏光グラスをかけた視界は、黄色のセロファンを通して見える世界だった。
湖面に垂直に立った浮子に神経を集中する。
不思議なもので、気のせいなのだが、耳に入ってくる自然の音も遮断されたみたいで、辺りがしんと静まり返った感じがする。
さっきまで聞こえていた、車の走る音、鳥の声、風の音など一切の音が消えて、僕と竿と浮子が、一直線に並んでいる。
ただただ、目の前の浮子を見ている。それ以外は目に入らない。
なんともいえない無の境地だ。
そのとき、ふと、
「あー、これはヘラブナ釣りにはまるかもしれんな」と思った。
左手でマッシュポテトを握って、丸め、上下二本のハリに付けて、目の前に振り込む。
餌とウキが着水する。寝ていた浮子が起き上がる。そして、沈下しはじめて、水面から消える。
数秒後、浮子のトップが水面から現れる。そしてゆっくりとトップが上にあがってくる。
サワリがある。アタリがあればアワセる。
乗るときもあれば、空振りするときもある。
竿を上げて、餌の無くなったハリを手元に戻して掴む。
そしてすぐに左手に握ったマッシュポテトをハリに付けて、目の前に振り込む。
もくもくと、その動作を繰り返す。
単調な動作の繰り返しなのだが、なんだか心地よいのだ。
Kさんもしばらく僕に話しかけてこなかった。
そうやって、僕は5枚くらいを釣り上げた。初めてのへら釣り経験で、全部で10枚くらい釣ることができた。もちろんKさんが朝から先に来て準備をしてくれたり、餌の打ち方、アワセ方など、一から十まで教えてくれたおかげである。
午後4時になっていた。僕はKさんに今日のお礼をいった。
「またぜひ行きましょう。もし続けれるようだったら、けっして無理せずに、へら釣りやってみてください」
「お盆に秋田のトガシさんのところへ行く前に、もう1回は練習したいので、また教えてください」
「ぜひぜひ^^」
僕は、先に釣り座を離れて、北山ダムをあとにした。五月の中旬のことだった。
僕のはじめてのヘラブナ釣りは、これにておしまい。
追伸
その日の夜、Kさんからメッセージが届いた。
「結局あのあと入れ喰いになって、18時まで釣って100枚になりましたよ^^」
その後、単独で北山ダムにへら釣りに行った際に撮った写真

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2022年11月15日
川浪秀之(Webプロデューサー、作家)
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三瀬のおと(佐賀県三瀬村のコラムやエッセイ)
三瀬村・里山の恵み みつせファン https://mitsusefan.com
三瀬で一番有名な産直店、まっちゃん、から釣り場へ戻った。Kさんが釣りを再開した。
八女から来た方は、僕たちが釣り座を離れた間も、快調に釣り上げていたみたいで、入れ喰い状態になっている。
地合いができているということのなのだろう。
「振り込み方とかアワセ方とか、よく見ておいたらいいですよ」と、Kさんが言った。
八女の方は力感なく、振り込み、素早くアワセる。
「また乗りましたばい」といい、いつも行っている筑後の釣り場と比べて、北山ダムの魚影の濃さと、型の良さに満足する言葉を発した。
初めてなので、何も知らないのだが、北山ダムのヘラブナは型が良いのだそうだ。尺上(しゃっかみ)が普通に釣れるという。
そうこうしているうちに、午後2時になった。
「いま何枚くらいですか?」とKさんが八女の方に訊いた。
「あと1枚で90枚です。あと1枚釣れたら終わりにします」
そろそろ納竿しないと、家に着くのが遅くなるから、ということだった。
ほどなくラストの1枚を釣り上げて、八女の方は納竿した。「また来るときは連絡ばしますね」といって、車に乗って帰っていった。
Kさんが僕に、交代しましょうか? といって竿を預けた。
「ちょっと波が出てきて、浮子(ウキ)が見えにくくなってきたので、これかけてやってみてください」
といって、眼鏡の上からかけるタイプの偏光グラスを貸してくれた。
日差しと、さざ波で、湖面がチラチラと光って、裸眼では浮子がどこにあるのかよく見えない。凝視しても見えないし、裸眼のままで長く見ていると、湖面から反射する光で目がやられそうな気がした。
僕は再び、日よけのパラソルの下で、釣り座にあぐらをかいて偏光グラスをつけて竿を振った。
偏光グラスをかけた視界は、黄色のセロファンを通して見える世界だった。
湖面に垂直に立った浮子に神経を集中する。
不思議なもので、気のせいなのだが、耳に入ってくる自然の音も遮断されたみたいで、辺りがしんと静まり返った感じがする。
さっきまで聞こえていた、車の走る音、鳥の声、風の音など一切の音が消えて、僕と竿と浮子が、一直線に並んでいる。
ただただ、目の前の浮子を見ている。それ以外は目に入らない。
なんともいえない無の境地だ。
そのとき、ふと、
「あー、これはヘラブナ釣りにはまるかもしれんな」と思った。
左手でマッシュポテトを握って、丸め、上下二本のハリに付けて、目の前に振り込む。
餌とウキが着水する。寝ていた浮子が起き上がる。そして、沈下しはじめて、水面から消える。
数秒後、浮子のトップが水面から現れる。そしてゆっくりとトップが上にあがってくる。
サワリがある。アタリがあればアワセる。
乗るときもあれば、空振りするときもある。
竿を上げて、餌の無くなったハリを手元に戻して掴む。
そしてすぐに左手に握ったマッシュポテトをハリに付けて、目の前に振り込む。
もくもくと、その動作を繰り返す。
単調な動作の繰り返しなのだが、なんだか心地よいのだ。
Kさんもしばらく僕に話しかけてこなかった。
そうやって、僕は5枚くらいを釣り上げた。初めてのへら釣り経験で、全部で10枚くらい釣ることができた。もちろんKさんが朝から先に来て準備をしてくれたり、餌の打ち方、アワセ方など、一から十まで教えてくれたおかげである。
午後4時になっていた。僕はKさんに今日のお礼をいった。
「またぜひ行きましょう。もし続けれるようだったら、けっして無理せずに、へら釣りやってみてください」
「お盆に秋田のトガシさんのところへ行く前に、もう1回は練習したいので、また教えてください」
「ぜひぜひ^^」
僕は、先に釣り座を離れて、北山ダムをあとにした。五月の中旬のことだった。
僕のはじめてのヘラブナ釣りは、これにておしまい。
追伸
その日の夜、Kさんからメッセージが届いた。
「結局あのあと入れ喰いになって、18時まで釣って100枚になりましたよ^^」
その後、単独で北山ダムにへら釣りに行った際に撮った写真

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2022年11月15日
川浪秀之(Webプロデューサー、作家)
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Posted by みつせファン
at 23:00
│川浪秀之